子供のころから広告が好きだった (18)

洗口液のリステリンが生まれたのは1879年です。誕生から141年間処方を変えていないと言われる稀有な製品です。外科医のリスター博士が手術時の消毒用に開発したものをランバート製薬が外科手術の消毒薬として世に出しました。一時期床掃除クリーナーや淋病薬として売られたこともあったのですが、その後口腔内の殺菌効果があることが判明し、1914年に一般向けのマウスウォッシュとしての発売が始まりました。同時に雑誌や新聞で広告を打ち始め、いわゆる「脅迫広告」で成功を収めわずか7年で11万5千ドルの売り上げを8百万ドルまで増加させたとのことです。その広告は「付添人ばかりで花嫁になれない」のキャッチコピーを使い、口臭故に結婚できない女性を悲劇のヒロインにして30年以上続けられました。初期の広告では通常使われるbad breathではなく医薬用語のhalitosisを使用したことも脅迫効果を高め成功の一因と言われました。このシリーズは廃刊となった雑誌「広告批評」でも「おどし広告」「ネガティブ広告」の原点として紹介されています。


しかしこの成功の後リステリンは迷走をし始めます。マウスウォッシュの他に、傷にも、風邪にも、のどの痛みにも効くと広告で言い始めたのです。なんにでも効くは下手をするとなんにも効かないととられるリスクがあるのですがね。このあたりはひび・あかぎれ、擦り傷、にきび、やけどから水虫、たむしと拡がり浪花千栄子の「痔にも効くんですよ」のCMまで流したオロナイン軟膏を思い出させます。


その後1930年頃の広告では髭剃り後に、とかフケにも有効だというものまで出始めました。


こうした効能追加でどのくらい売り上げが上がったかは分かりませんが、製品の輪郭が呆けたことは確かだと思います。1976年に恐れていたことが起こります。FTC(米国連邦取引委員会)が風邪やのどの痛みに効くという表現は誤解を招くだけでなく予防や緩和する点に関して効果はないと裁定したのです。製造販売元のワーナー・ランバート(WL)社はこれらの広告表現を中止するだけでなく以降の広告で「リステリンは風邪やのどの痛みを予防することも軽減することもありません」の文言を加えることを要求されました。
しかしその後はマウスウォッシュとして順調に伸び、アメリカではほとんどの家庭の常備品となり、スーパーでは何間ものスペースをあてがわれる製品となりました。1999年にはWL社買収によりファイザー社の製品となり、2007年にはジョンソン・アンド・ジョンソン社の傘下に入って現在に至っています。
日本では1985年にテスト販売が始まったのですが、私がWL社に入社した時は発売前のリステリンはプロダクトマネジャーとセールスマネージャーのたった二人の事業部でした。何年も製品を出せずにいたプロマネのTさんはいつも暇そうで時々私の部屋にやってきて「何度製品テストをしても購入意向率が低くて経営陣がOKをくれない。それにテストをしても多くの対象者が刺激が強すぎて製品を30秒口の中に含んでいられなくて吐き出すからテストにならない」とぼやき、セールスマネージャーのFさんはアメリカンドラッグで輸入品を買った消費者から「パッケージにフケに効くと書いてあるからずっと使っているが全く効かない」とクレームを貰ったと呆れていました。(口に含むのではなく頭皮にかけてマッサージするのが正解です)
コロナ禍の今、我が家の洗面所でリステリンはその存在感を増しているようです。

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洗口液のリステリンが生まれたのは1879年です。誕生から141年間処方を変えていないと言われる稀有な製品です。外科医のリスター博士が手術時の消毒用に開発したものをランバート製薬が外科手術の消毒薬として世に出しました。一時期床掃除クリーナーや淋病薬として売られたこともあったのですが、その後口腔内の殺菌効果があることが判明し、1914年に一般向けのマウスウォッシュとしての発売が始まりました。同時に雑誌や新聞で広告を打ち始め、いわゆる「脅迫広告」で成功を収めわずか7年で11万5千ドルの売り上げを8百万ドルまで増加させたとのことです。その広告は「付添人ばかりで花嫁になれない」のキャッチコピーを使い、口臭故に結婚できない女性を悲劇のヒロインにして30年以上続けられました。初期の広告では通常使われるbad breathではなく医薬用語のhalitosisを使用したことも脅迫効果を高め成功の一因と言われました。このシリーズは廃刊となった雑誌「広告批評」でも「おどし広告」「ネガティブ広告」の原点として紹介されています。


しかしこの成功の後リステリンは迷走をし始めます。マウスウォッシュの他に、傷にも、風邪にも、のどの痛みにも効くと広告で言い始めたのです。なんにでも効くは下手をするとなんにも効かないととられるリスクがあるのですがね。このあたりはひび・あかぎれ、擦り傷、にきび、やけどから水虫、たむしと拡がり浪花千栄子の「痔にも効くんですよ」のCMまで流したオロナイン軟膏を思い出させます。



その後1930年頃の広告では髭剃り後に、とかフケにも有効だというものまで出始めました。


こうした効能追加でどのくらい売り上げが上がったかは分かりませんが、製品の輪郭が呆けたことは確かだと思います。1976年に恐れていたことが起こります。FTC(米国連邦取引委員会)が風邪やのどの痛みに効くという表現は誤解を招くだけでなく予防や緩和する点に関して効果はないと裁定したのです。製造販売元のワーナー・ランバート(WL)社はこれらの広告表現を中止するだけでなく以降の広告で「リステリンは風邪やのどの痛みを予防することも軽減することもありません」の文言を加えることを要求されました。
しかしその後はマウスウォッシュとして順調に伸び、アメリカではほとんどの家庭の常備品となり、スーパーでは何間ものスペースをあてがわれる製品となりました。1999年にはWL社買収によりファイザー社の製品となり、2007年にはジョンソン・アンド・ジョンソン社の傘下に入って現在に至っています。
日本では1985年にテスト販売が始まったのですが、私がWL社に入社した時は発売前のリステリンはプロダクトマネジャーとセールスマネージャーのたった二人の事業部でした。何年も製品を出せずにいたプロマネのTさんはいつも暇そうで時々私の部屋にやってきて「何度製品テストをしても購入意向率が低くて経営陣がOKをくれない。それにテストをしても多くの対象者が刺激が強すぎて製品を30秒口の中に含んでいられなくて吐き出すからテストにならない」とぼやき、セールスマネージャーのFさんはアメリカンドラッグで輸入品を買った消費者から「パッケージにフケに効くと書いてあるからずっと使っているが全く効かない」とクレームを貰ったと呆れていました。(口に含むのではなく頭皮にかけてマッサージするのが正解です)
コロナ禍の今、我が家の洗面所でリステリンはその存在感を増しているようです。
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