マーケティング爺のひとりごと

外資系7社でチューインガムから抗癌剤までのマーケティングを生業としていた引退老人です。使えそうなデータや分析、気になった出来事、思い出、日々思うことなどをボケ防止のため綴っています。にほんブログ村 経営ブログ 広告・マーケティングへ
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2024年11月

住んでいるマンションでは毎年二回減災訓練がある。今日がその日だ。休日の朝に室内のインターホンのスピーカーから巨大地震が発生したとの案内放送が流れ、室内待機の後、火災が発生して延焼中なので避難しろとの指示が出る。同じ内容の放送が敷地内のスピーカーからも流れ住民の退避が始まる。
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働いていた頃はせっかくの休日の朝に放送で起こされるのは3時にベッドに入る自分には少し腹立たしく、訓練に参加することは少なかった。今は管理組合の理事長なので参加せざるを得ない。訓練は退避後広場に集合して消火器やAEDの使用訓練があり(時には地震体験車やはしご車を消防車から出してもらうこともある)その後会議室に移動して消防署員や防災専門家による講話がある。本日の講話は「高層マンションにおける防災」というタイトルだった。

マンションは高層階になるほど地震の揺れ幅が大きく、家具などの転倒、落下、移動による被害が大きくなることは阪神淡路や東日本大震災で実証されている。怪我だけでなく通路や出口ドアを塞ぐことによって避難障害を招くこともある。それらを防ぐために背の低い家具に変えたり、人がいない方向に倒れるように家具の向きを変えたり、窓際には重量物や移動しやすいものを置かないようにする。大きな家具はL字金具で壁に固定したり、ストッパーを併用したりする、などが実物とともに紹介された。

記憶ではかつては防災訓練と呼んでいたと思う。今は減災訓練だ。「防災」が災害を未然に防止し被害をゼロに近づけるための努力なのに対し、「減災」は災害は起こるものだと考え被害を最小に抑えるための事前対策と定義づけられる。自然をねじ伏せようという考えから自然には敵わないと現実的になったような気がする。この変化は1995年の阪神淡路大震災の経験から来たらしく、その後「減災」が一般的になったようだ。

国や地方自治体は「自助」「共助」「公助」で災害に備えよと言う。まず自分および同居家族で身を守り備蓄品や持ち出し品を準備する。次に隣近所や町内会、自治会などのコミュニティで助け合う。最後に国や自治体の対策や制度を利用する。ただ防災に詳しい人は「公助」は期待しないほうが良いという。国や市のプライオリティはまず公共施設や病院、学校に置かれ民間の共同住宅はその後になるだろう。

「公助」がないわけではない。私の両親は阪神大震災で被災した。寝室の箪笥が倒れてあわや直撃だったらしい。電気ガス水道すべてが止まり、その夜自衛隊の給水車が来たので二人で9階から階段でおり、寒い中並んで水を貰い、階段をまた昇って部屋にたどり着いたら二度と下に降りる気力も体力もなかったらしい。老人から死んでいく、と妹が言っていた。だから「自助」が第一で「共助」がそれに続く。ただ、困った時だけの「共助」は機能しない。普段から協力したり、少なくとも顔見知りになっておかないと非常のときに役に立たない。

今日のような減災訓練に、毎年同じことをしているから今年は参加しない、という老人もいる。繰り返しが大事なんだよ。災害発生時はだれもがパニックに陥る。パニックになると準備したことしか実行できない。それも十分に準備したことしか。消火器は扱えるかもしれないが、パニック時にAEDがちゃんと扱えるか自分でも自信がない。毎年同じ訓練を受けて体で覚えないと駄目なんだけどね。

ジャム理論は選択肢が多いと人は決められない「決定回避の理論」だった。選択肢がある程度以上になると選択が難しくなり決めるのが困難になる。その数は5~9という説もあれば、3~5という説もある。それ以下であれば消費者は比較的簡単に決定することができるはずだ。そこで3という数字の出番になる。

もとは商品やサービスは三段階に分けて提示すると真ん中の選択肢を選びやすいという「ゴルディロックスの原理」と呼ばれる経済学用語で、「ゴルディロックスと三匹のくま」という童話に端を発している。ゴルディロックスという少女が三つの選択肢からちょうどよい温度のスープやちょうどよい硬さのベッドを見つけていくことから、欧米では「ちょうどよい」へと誘導する手段をゴルディロックの原理と呼ばれていたらしい。

わが国では三種類を表すのに松竹梅がよく用いられる。ゴルディロックスと同様に三つの選択肢がある場合には極端を嫌う日本人の多くは無意識に真ん中を選んでしまう。これが松竹梅の法則で、価格や品質が違う三種の製品を提示して、一番売りたい製品を真ん中に位置させるというのがポピュラーな販売方法だ。鰻屋や寿司屋でもよく見られる松定食、竹定食、梅定食。松はおいしそうだがちょっと贅沢すぎるし、失敗したらもったいない。梅を頼むとみみっちいと思われそうだ。その結果真ん中の竹が選ばれる。
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実証データはあるらしいのだが、よく言われるのは松:竹:梅の比率は2:5:3となることが多いそうだ。半分の人は竹を選ぶ。選択肢が竹と梅の二つになると3:7になるらしい。ま、これは価格の設定にもよるだろう。一番売りたいものを真ん中に設定したいのなら、松と竹の価格さを大きめに取り、竹と梅の差は小さめにする。例えば松が5000円ならば、竹は3000円で梅は2000円位が妥当かもしれない。竹の3000円に2000円を足せば松を頼めるがプラス2000円はちょっとね、でも2000円の梅にあと1000円を足せはおいしいもの、上質なものが手に入るのならと考えると竹に落ち着く、というわけだ。(上のうな重の例はこの説とは異なりますね。この店は安価な鰻がウリなので松を薦めたいのでしょう。)

選択肢が4以上になると「決定回避の法則」が働いて、買わないという選択をさせてしまう可能性が高くなる。選択肢がふたつだと上記の竹と梅のように安い方に流れて利益率は下がる。松竹梅の法則は選択肢を3にすることで真ん中の買ってほしい商品を選ばせるように誘導し、「買うか買わないか」の選択から「どれを買うべきか」の選択に論点を切り替えてしまう所が効果的と言えるところだ。

15年くらい前にこんなCMがあった。ホームセンターの一角にベビーカー売り場があり4種類の製品が陳列されている。若い夫婦がその前に立ちざっと見た後に1台を選んで買っていった。その後20種類近いベビーカーが並べられると、買いに来た夫婦は悩んだ末に選ぶことができず買わずに帰ってしまった。
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CM画像にはプリンストン大学のシャフィール博士の「選択肢が多い方がより良いものが選べると思うでしょう。選択肢が増えすぎると人はむしろ何も選べなくなるんだよ」のスーパーインポーズが挿入されていた。

このCMを機に「決定回避の法則」は少し知られるようになった。マーケティングの分野ではこの法則は「ジャム理論」とか「ジャムの実験」の名前で語られることが多い。コロンビア大学のアイエンガー教授が1995年に行ったジャムの試食販売実験に基づいている。教授はスーパーマーケットの入り口近くで24種類と6種類のジャムの試食販売を繰り返し、種類の多さが売り上げにどう影響するかを調べた。11
その結果は24種類のジャムを陳列した場合は通行客の6割が立ち寄って試食したのに対し、6種類の時は4割しか試食しなかった。しかし試食後に購入した人の比率は24種類の時がわずか3%であったのに対し、6種類の時はその10倍の30%だった。実購買者比率は24種の時が60%x3%で1.8%だったが、6種の時は40%x30%の12%となり6倍強の差がついた。

「6種類ならともかく24種類全部試食したのかい」と突っ込みたくなるところだが、6種の方がコンバージョン率が高いのは明らかだ。ただ集客率が高いのは24種の方なので、陳列数が多いのが一概に悪いとは言えない。またこれはジャムの場合なので、製品のカテゴリーや消費者のタイプによっては状況が変わることも忘れてはいけない。私も先日台所の照明を蛍光灯からLEDに変えようとヨドバシに出かけたが、30くらいの種類があって戸惑った。日本製ならどれでもそんなに変わらないだろうと考えて、一番安い製品を選んだ。関与度の低い製品だとどれにするか考えるのが面倒になり、私のようなコスト志向の消費者は選択肢が多くても苦にすることはあまりない。

売るサイドから見ると集客のためにはある程度の種類を揃えなければならない。消費者の混乱を避けるためには、製品の特徴をシンプルに表した説明文、その店での売り上げランキング、お店のおすすめなど消費者をうまくガイドするような方法を加えておけば混乱は最小化できるはずだ。

ちなみに上記の広告は大和証券グループの広告だと初めて気づいた。よいCMだとは思うのだが広告主を想起できないのは広告としてはどうなんだろうか。(下のサイトで見られます)
https://youtu.be/lJZjF8IbfSk

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