マーケティング爺のひとりごと

外資系7社でチューインガムから抗癌剤までのマーケティングを生業としていた引退老人です。使えそうなデータや分析、気になった出来事、思い出、日々思うことなどをボケ防止のため綴っています。にほんブログ村 経営ブログ 広告・マーケティングへ
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2025年05月

好奇心の強さが数少ない自分の強みだと思っていた。大学を出て就職した広告代理店で上司から「ベストセラーは目を通せ、流行っている歌は聞いておけ、ヒット商品は試してみろ、人が集まる店には顔を出せ、自分で買い物をしてモノの値段を知っておけ」と言われたことを守ってきたことが影響しているのかもしれない。今何が売れていてその理由は何なのかを情報として仕入れるのではなく、自分で調べろということだった。

だから家じゅう本やビデオだらけになったし、自分の考え方や思考方法を変えるかもしれないと思って1980年に軽乗用車が買えるくらいの金額で出始めたばかりのPC(当時はマイコンと呼んでいた)を手に入れてプログラミングを憶えたし、その数年後には個人用に売られ始めたワープロも手に入れた(これは使い物にならなかった)。映画館にも毎週のように通ったし、コンサートにも行った。代理店時代もその後のメーカーでのマーケティング部も無料で手に入るチケットが貰えたので財政的に助けられた面も多かった。

しかし歳をとるにつれて好奇心が失せてきた。コンサートに行っても感動することが少なくなった。感性が鈍磨されたのだと思う。感情移入の度合いが減ってきたのだ。老眼が進んで本を読むのが面倒になる。テレビはニュース以外は見なくなった。最近のタレント、歌手や芸人の名前はほとんど分からない。映画は定期的に見ていたが近所のシネコンがなくなってからは遠くまで見に行く気力がない。流行りの場所に行くことも激減した。

そんなことを考えていたら博報堂生活総合研究所のデータを基にした「生活寿命」の記事が目に付いた。これは歳をとると大盛を頼めなくなる(42歳)、行列してまでラーメンを食べたくなくなる(43歳)、焼肉がヘビーに感じられ食べたくなくなる(51歳)、料理を作る気力がなくなる(56歳)などの食に関連する「寿命」と同様に「消費」に関しても寿命や定年があるのではないかという発想だ。新製品や新規開店に惹かれるのは何歳くらいまでなのか。食欲とはちがって気力や好奇心は何歳くらいで失せるのだろうかと興味を持った。
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新製品に興味を持つのは平均で41歳までだ。自分は菓子や飲料の新製品開発の仕事もしていたので人よりは新製品に関心を持っていると思うが、60歳で引退してからは興味は失せ気味だ。新規開店の店や商業施設に行こうと思わなくなるのは52歳。これも当たっている。今住んでいるところは徒歩圏内にショッピングモールがいくつかあるが最近はご無沙汰だ。歩いて5分の場所に最近イケアがオープンしたが訪れたのは開店後ひと月後でそれも買い物のついでに寄っただけだ。かつては良く買い物に行っていたアウトレットモールが数年前にリニューアルオープンしたが出かけたのは2か月前だった。腰が重くなっている。これは同調査で示されているモール寿命(55歳)や人ごみ寿命(49歳)も同様で、体力、気力、忍耐力、好奇心が落ちている証拠だろう。

長く生きていると耐久消費財も新たに買うことが少なくなり、保守的にもなるので消費財も今まで使っていたものと異なるものに興味を持たなくなるという一面もある。子供が同居している頃は子供と一緒に買い物や飲食をすることが多かったが、彼らが独立して家を出るとそうした機会も減る。ともに体力気力が衰えた老夫婦は限られた生活空間で新鮮味に欠ける消費生活をすることになる。でもそれらは長い間の取捨選択で残ったものばかりなのだから、それでも良いのではないかとは思う。


昔広告の仕事をしている時習ったものの中に「AIDMA」というものがありました。広告接触から購買に至るまでの過程を示したものです。Attention(注目)Interest(興味)Desire(欲求)Memory(記憶)Action(行動)の頭文字をとったもので、広告を見て興味を持ち欲しくなって製品名を憶えて購入するという順番で購買行動は起きるというもので広告マンはよく使っていました。ただいくら注目を惹く広告でも興味がなければ惹きつける力はありません。全15段の全面広告や長尺TV広告を打ってもマンションに興味のない戸建て既購入者や電気カミソリに関心のない主婦に広告を注目させる効果はほとんどありません。逆にスペースは小さくても仕事を探している人は求人広告を熱心に熟読します。Interestの方がAttentionより先にあるのではないか、という議論をしていたことを思い出しました。
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時代も移りメディア状況も変化し一世紀を経たAIDMAも修正を加えねばならなくなりました。インターネットやSNSの発達で購買行動にも変化が生まれました。その変化をとらえて電通が発表したのが「AISAS」です。AttentionとInterestまでは同じなのですが、その次がSearch(ネットで調べる)、Actionで、最後がShare(購入したものの感想や評価をネット上で共有する)の流れになりました。eコマースの隆盛でDesire(欲求)とMemory(記憶)が消えてしまったのはすごいですね。興味を持ったら調べて比較する。納得したらポチッとして、購入後には製品が良くても悪くても自分なりの評価を書きこむ。自分の購買行動を振り返ってもその通りですものね。コミュニケーションが双方向になって口コミの力が増強され、消費者にとってはありがたく、メーカーにとってはうかうかできない状況になりました。

このシリーズも3回目なので3にかかわるテーマを選びました。

Three Hit Theory(スリーヒット理論)
ずいぶん昔ですが広告の仕事をしている時にちょっと流行った理論です。Ad Ageにも特集されたことがありました。曰く、広告は3回目から効く。消費者は広告に複数回接触することで段階的に態度変容を起こし、最終的には購買に至るというのがその主旨でした。こんな流れになります。

1st Hit:認知
最初の接触は消費者に商品の存在を認知してもらうことです。注意を引き、記憶に残ることが目的になります。そのために刺激的なクリエイティブ、キャッチーなコピー、ユニークな表現などで消費者の注意をひきつけます。「なに?この商品」と思わせる工夫ですね。

2nd Hit:理解・興味
2回目の接触では商品をより深く理解してもらい、興味を持ってもらうことが目的です。どんな価値がその商品にはあるのか、使うことによる自分にとってのメリットは何なのかを伝えるのです。広告のなかの機能の説明、使用シーン、問題解決シーンなどが有効です。「面白そう」「役に立つかも」と思わせれば成功です。

3rd Hit:行動喚起
3回目の接触では購買意欲を高め、行動を喚起することが目的です。購入を促すような直截的なメッセージがあるといいですね。たとえば新発売キャンペーンの情報、どこで売っているかの案内などで購買の後押しをするわけです。クーポンの案内とか、自社のECサイトに誘導してより詳細な製品説明も有効です。

この3つの目的を同じ広告でカバーするの困難です。複数回、異なる角度からの情報提供が必要となります。新聞広告等なら可能かもしれません。伝統的メディアだけでなく、店頭POP、オンライン広告などを組み合わせれば比較的安価に実行できるかもしれません。Web広告を使えば一度サイトを訪れたユーザーに2度目3度目の広告メッセージを効果的に提供できます。
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この理論に触発されたのかどうかは分かりませんが、そのころ3+リーチを重要視するメディアプランが台頭してきました。広告効果を評価するには到達率と接触回数が良く用いられますが、通常は1回以上接触した率をリーチと呼び、接触者の平均視聴回数を平均フリークエンシィと呼びます。80%のターゲットに平均3回メッセージを届けた、とか言います。ただ平均3回接触には1回だけの人もいれば20回接触する人もいます。1回や2回では効果が薄いので3回以上、しかしあまり多く接触すると飽きられるしコスト効率も悪くなるので10回まで、つまり3回から10回接触する人を最大化するメディアミックスやメディアプランを苦労して作ったものでした。いまならデータも多いし、ネットなら双方向なので接触データがとりやすいから楽にできそうですね。

マーケターは物事を数字でとらえたり数字でくくったりするのが好きですね。マーケターが使う数字でくくったフレーズや語呂合わせをいくつか紹介します。
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3C
自社を取り巻く利害関係者を分析するときに使われます。Customer、Competitor、Companyの3つです。顧客は誰なのか、どんなニーズを持っていて更なるセグメンテーションは可能なのか。競合会社は誰か、どんな強みと弱みを持っているのか、彼らの特徴・経営資源・差別化ポイントは何なのか。それらの顧客と競合に対応するために自社はどんな強みと弱みを持っているのか、自社の経営資源は、技術やブランド力は、などを分析して市場機会と脅威を把握し戦略を練ります。マーケティング戦略立案のスタートポイントとして有効です。一番大事なCは、もちろんCustomerです。

4P
マーケティングの教科書に最初に出てくるのは4Pであることが多いですね。古いと言われながらまだ生き延びているマーケティングの4P。Product、Price、Place、Promotionの4つのPで始まる要素を組み合わせれば売れる仕組みができるというE.マッカーシーが考案したものです。顧客が望む価値を持つ製品、競合的な価格、製品を効率的に配荷する流通、購買意欲を高める販促活動の4つです。初心者にマーケティングとは何かを説明するには便利な道具ですが、消費者の視点に欠けているのが弱みです。

4C
4Pが売り手の観点から見たマーケティングとすると4Cは買い手サイドから見たマーケティングです。R.ラウターボーンが提唱したCustomer Value、Customer Cost、Convenience、Communicationの4つで4Pの4要素に対応しています。顧客は何(価値)を買いたいのか、いくら(金銭や情報収集時間など)支払うのか、どこでどのように買いたいのか、どうやって顧客との(一方的な情報発信でなく)対話をするのか、と言い換えることができます。4Pと合わせて使うとより立体的な戦略が構築できます。

7S
マッキンゼーが提唱した組織の有効性を高めるための7つの要素です。3つのハードと4つのソフトからなります。ハードの3SとはStrategy、Structure、Systemでソフトの4SはShared Value、Skills、Staff、Styleです。簡単にまとめるとまず自社の戦略を見直し、組織構造を変え、システムを整備します。次に共通の価値観を社員間に浸透させ、組織および個人のスキルを高め、人材の育成をします。そしてそれらが完成されることによって企業の文化(Style)が変わるというわけです。この7要素はそれぞれ独立しているのではなく相互に影響しあっているので、これらの要素全体を整合性のある状態に持っていくことが重要です。ハードの3Sは比較的簡単にコントロールしやすいのですが、ソフトの4Sは組織文化や人材に係わるのでコントロールが容易ではなく、時間をかけて醸成することが必要になります。

根拠がはっきりしないものもあるが、マーケティングの世界には数字がらみの法則がいくつかあります。覚えておくと参考になるかもしれないのでいくつか紹介しましょう。
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1対5の法則
新規に顧客を獲得するためにかかるコストは既存顧客を維持するコストの5倍かかる。
既存客は既に製品を購入しているためブランド認知があり、製品特徴や他社製品との差も理解しているので再購入の可能性が高い。新規顧客獲得よりも既存客の維持の方に力を入れたほうが賢明という考え方です。(成熟市場では有効なことが多い。しかし新規客も狙わないと長期的にはじり貧になる)

5対25の法則
顧客離れを5%改善すれば、利益は最低でも25%改善される。
1対5の法則にあるように既存客は新規顧客ほど日常的には手がかからないので利益率が高い。そんなに手をかけなくても再購入してくれる確率が高いので、既存客を失うとその数倍以上の営業利益が消えてしまう。リピータは大事です。ロイヤルティが利益に大きく貢献するということですね。

1人の不満足は66人に伝播する
製品やサービスに満足した消費者は平均7人にそのことを話すが、不満を感じた消費者はその不満を11人に話す。その11人がそれぞれ5人に話すとされ、合計66人に不満が伝わる。その根拠はよく分からないが、満足より不満を訴えたいという心情は理解できます。最近はネットの口コミでネガティブコメントをよく見かけますが、ネットの広範囲・急速な拡散性を考えると66人以上に伝播することは十分に考えられます。

20:80の法則(パレートの法則)
ABC分析をすると上位20%の顧客が80%の売り上げを占めることがよくあります。同様に2割の販売員が全社の8割の売り上げを担っている事例もあるし、2割の製品が会社の利益の8割を産み出すこともあります。クレームの80%は特定の問題や少数の顧客から発生することも多くあります。ウェブサイトの80%のトラフィックは20%のページに集中する。もちろんすべてには当てはまらないがビジネス戦略を立案するときにABC分析をすると注力すべき対象が明確になることが多い。

プロスペクト理論
これは数字は付いていないが有名な理論で、人間は同じ価値でも得することよりも損することに対してより敏感に反応する「損失回避性」と呼ばれる心理傾向を持ちます。同じ金額の利益を得た時の喜びよりも、同額の損失を出した時の悲しみの方が大きいと感じます。100円引きの商品を買って「得した」と思うのより、買った翌日に100円値下げされているのを見る方が同じ100円でもショックや落胆が大きいのですね。

いくつかの消費財メーカーでマーケティングを担当していたし、広告の仕事をしていたこともあるのでコピーやキャッチフレーズはいまだに気になる。このブログでも書いたことがあるが、「私はこれで会社を辞めました」や「おしりだって、洗ってほしい」「アンネの日」などは会社存亡の危機を救ったり、新しい市場カテゴリーを開拓するのに多大な貢献があったコピーでありキャッチフレーズだった。

当時は「おいしい生活」とか「モーレツからビューティフルへ」など時代を代表するようなコピーもあったが、メーカーでモノを企画製造する立場だった人間としては製品やそのベネフィットに直接リンクするようなコピーに惹かれる。そんなことを考えていて頭に浮かんだのはグリコの「一粒300メートル」だった。
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グリコは子供のころから食べていてグリコーゲンという言葉もなんとなく聞いていた。理由は分からなかったが、一粒食べれば300メートル走れそうな気がした。グリコというキャラメルは創業者である江崎利一が牡蠣の煮汁から得たグリコーゲンを加えた栄養菓子で1922年に発売された。ブランド名も社名もそれに因っている。グリコは戦前は栄養菓子に力を入れたようで1933年にはビスコを発売した。ビスコは酵母入りのビスケットで5枚に1億個の乳酸菌が入っているという。当時は子供の栄養状態が良くなかったのでそれを改善したいと考えたのだろう。それに栄養菓子という位置づけにすれば親も他の菓子より子供に与えやすくなる。そのうえ発売5年後にグリコにおまけを付けるようになって販売量が大幅に増加した。日本初の食玩と言われている。(下の写真は発売時のパッケージ)
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一粒300メートルはそれなりの根拠がある。グリコの一粒は16.75kカロリーがあり、平均的な成人男子が100メートルを35.5秒のペースで走ると16.75kカロリーで300メートルを走ることができるのだという。江崎利一という人はアイデアマンのようで、このキャッチフレーズもゴールインマークも彼が考えたらしい。その後発売されたアーモンドグリコの「一粒で二度おいしい」も彼のアイデアだ。ただ発売時のパッケージのランナーの顔が怖いと言う女学生が多くて書き直しをして笑顔のゴールインランナーとなり、その後も笑顔が引き継がれている。
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「一粒300メートル」が秀逸なのは、短く簡潔に商品の特徴を表して記憶しやすいところだろう。ちょっと残念なのは、今のグリコは粒がハート型になっていて昔子供のころに食べたのと異なっている一点である。

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