うちの近所のスーパーやコンビニではあまり扱いがないのだがタカキベーカリーのパンは好きなパンのひとつだ。最近のお気に入りは全粒粉入りの6切れフランスパンで、おいしくて妥当な値段(258円)だ。ヨーロッパの伝統的なパンを目標にしているみたいだ。石窯で焼いているらしく石窯パンとの表示がある。オーブントースターで焼くと皮はパリッ、なかはしっとりもちもちしている。
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タカキベーカリーの名を聞いたのは45年くらい前だった。広告代理店に勤務していた時に新規クライアントを獲得するための全社プロジェクトが開始され私にあてがわれたのはタカキベーカリーのチームだった。その時は社名も知らず「なんで広島のパン屋」を狙わなければならないのか分からなかった。

タカキベーカリーは被爆からちょうど3年目の1948年8月に広島市で誕生した。製パン業に加えて1967年にレストラン併設の広島アンデルセンを、1970年に青山アンデルセンを開店し、1972年には特許取得した冷凍パンの製法を利用してフランチャイズ店舗のリトルマーメイドの展開を開始した。2002年にはアンデルセングループを名乗り、タカキベーカリーは持ち株会社のひとつとなった。プロジェクトに参加した時には既に青山アンデルセンは開店しており私も大学生の時にデートで一度食事をしたことがあったのだが、タカキベーカリーが経営しているとは知らなかった。当時は知名率も低かったがいくらなんでも不勉強で、当然新規クライアントを獲得することはできなかった。
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社名のアンデルセンはデンマークの童話作家に由来する。創業者の高木俊介が1959年にコペンハーゲンで食べたデニッシュペストリーに感銘を受けて以来デンマークをお手本としてきた。デニッシュハートというデニッシュペストリーも発売しているし、リンゴやブドウなどを栽培する農場は「アンデルセンファーム」と名付けられている。それらの縁で1981年にデンマーク女王が来日した際に広島アンデルセンを訪問された。当時のメディアの反応は「なぜ広島に?」と言う感じだった。まだタカキベーカリーの認知は低かった。その後も1987年にはデンマーク皇太子が、2011年には第二王子が広島アンデルセンや青山アンデルセンを訪れている。高木俊介は1984年にデンマーク王国から騎士勲章を授けられ1986年には名誉領事に任命されている。

パンは良心的に作られていておいしく安心して食べられる。アンデルセンはデンマーク王国との関係だけでなく同国に出店もしているし(他に香港などにも)、冷凍パンの開発、「アンデルセンのメルヘン大賞」の設立など地方の私企業としては活発でユニークな事業展開をしている。また今では普通にみられるトングとプレート使用のパン屋のセルフチョイス方式を初めて採用したのも広島アンデルセンだ。関東ではアンデルセンやリトルマーメイドの名前は十分知られるようになったが、タカキベーカリーの浸透度はイマイチだ。先日近所のデパ地下のアンデルセンでバゲットを買った時に「ここは広島のタカキベーカリーですよね?」と言ったら、店員さんがすごくうれしそうな顔をしたのが印象的だった。