大学生の時に夜は広告コピーの勉強をするために渋谷にあった専門学校に通っていた。途中の宮益坂に仁丹ビルがありそれを目印にしていた。1963年に仁丹の東京支社として建てられたビルは夜になるとビル全体が煌々と輝き廻りを席巻していた。当時の渋谷のランドマークだった。仁丹の全盛期だったと思う。

卒業して入った広告代理店ではコカコーラの担当だったが、その会社は仁丹もクライアントだった。60年代には成人男性の喫煙率が80%以上あり、仁丹も「タバコに仁丹」で販売増を誇ったが、年々たばこ離れが始まり、サラリーマンの必需品だった銀粒仁丹の売り上げも下降していた。おじさんからのターゲットの拡大を狙っているらしく仁丹グループの席からはグリーン仁丹やレモン仁丹のCMソング案がよく聞こえてきた。あれだけ中年男性にリンクした製品を若い人向けに拡げるのは大変だろうなと思いながら聴いていた。
その後仁丹を意識したのは菓子の会社に転職をしてクロレッツを開発した時だった。競合相手は当然ロッテのグリーンガムだったが、マウススプレー、ミント菓子や仁丹も想定される競合製品だった。仁丹は中高年男性に深く浸透していて朝の駅で使用しているところを良く目撃した。当時まだ煙草屋が多くあり必ず仁丹も併売されていた。ただ仁丹の問題点はおじさんたちの口臭や二日酔いに特化された使用理由で、使っているところを見られると「タバコやニンニクの匂い消し」「二日酔いなんだ」と思われてしまい人前で使うのを憚られる反面教師的な製品としてだった。この種のタブー商品は効能効果を直接訴えると買いにくくなるし人前で使いにくなる。だからクロレッツの初期の広告は効能訴求をしながらのユーモア路線しか選択の余地はなかった。
その仁丹がリブランディングをしたと日経クロストレンドに載っていた。会社も半ばあきらめていた発売130年の創業ブランドを再軌道に乗せたのは前々年に新卒入社の女性社員だ。かつては日本で最も売れている市販薬だった製品を新入社員に託すのは勇気もいるが正しい選択だと思う。昔を知っている社員は社名の元になっている製品やブランドのプロポジションを変える勇気を持てないのが普通だ。過去を知らないからこそ固定観念やブランドイメージに邪魔されずに製品価値や存在理由に目を向けることができる。
最初に彼女がしたことは仁丹の使用目的を4象限にグリッド化したことだ。横軸に「誰に向けた製品か」縦軸に「植物由来か非植物由来か」をとり、そこに競合と目される製品をプロットした。それまでの仁丹が他人に不快感を与えないためのエチケット製品だったものを自分のための気分転換ブースター的な製品にリポジショニングしたのだ。新しいポジショニングは「自分のために使う健康に良い口中清涼剤」とななる。口臭も二日酔いも胃もたれも触れられていない。ネガティブ要素を除いて自分を上げる要素だけになっている。よい変更だ。

ただ縦軸のとり方には多少問題がある。植物由来で切るのは自社ブランドに都合がよいだろうが、ポジショニングは「消費者の意識の中で競合と比べたマップ上のどこに自社製品が位置するか」と定義されるので、食物由来かどうかを気にしない他社製品の消費者のことは斟酌されていない。またマウスウォッシュや口中清涼剤を自分のために使用する人の方が多いと思われるのでこれも若干恣意的ではある。
ただネガティブ要素を排除し自分のお守り的製品にしたことは評価できる。同時にポジショニングを変えてもパッケージやキービジュアルを維持していること、生薬であること、医薬部外品、カフェインレスでシュガーレスであるアセットを訴求しているのも評価できる。この成功のせいかどうかは分からないが仁丹の業績はこの3年間増収総益だ。彼女は社長賞くらい貰ったのだろうか。
かつては日本最大の大衆薬であり、長い間日本の大広告主であり、中年男性を中心に愛された仁丹。1980年代のピーク時と比べると売り上げはわずか3%にまで落ち、一時は会社の存続も危うかった。昔銀行から仁丹を買収しませんかと話があった。ブランド価値を調べたが提案額には及ばず話は進まなかった。そんなブランドが再生されて頑張っているのを見るのは老マーケッターとしては喜びに堪えない。頑張れ!仁丹。

卒業して入った広告代理店ではコカコーラの担当だったが、その会社は仁丹もクライアントだった。60年代には成人男性の喫煙率が80%以上あり、仁丹も「タバコに仁丹」で販売増を誇ったが、年々たばこ離れが始まり、サラリーマンの必需品だった銀粒仁丹の売り上げも下降していた。おじさんからのターゲットの拡大を狙っているらしく仁丹グループの席からはグリーン仁丹やレモン仁丹のCMソング案がよく聞こえてきた。あれだけ中年男性にリンクした製品を若い人向けに拡げるのは大変だろうなと思いながら聴いていた。
その後仁丹を意識したのは菓子の会社に転職をしてクロレッツを開発した時だった。競合相手は当然ロッテのグリーンガムだったが、マウススプレー、ミント菓子や仁丹も想定される競合製品だった。仁丹は中高年男性に深く浸透していて朝の駅で使用しているところを良く目撃した。当時まだ煙草屋が多くあり必ず仁丹も併売されていた。ただ仁丹の問題点はおじさんたちの口臭や二日酔いに特化された使用理由で、使っているところを見られると「タバコやニンニクの匂い消し」「二日酔いなんだ」と思われてしまい人前で使うのを憚られる反面教師的な製品としてだった。この種のタブー商品は効能効果を直接訴えると買いにくくなるし人前で使いにくなる。だからクロレッツの初期の広告は効能訴求をしながらのユーモア路線しか選択の余地はなかった。
その仁丹がリブランディングをしたと日経クロストレンドに載っていた。会社も半ばあきらめていた発売130年の創業ブランドを再軌道に乗せたのは前々年に新卒入社の女性社員だ。かつては日本で最も売れている市販薬だった製品を新入社員に託すのは勇気もいるが正しい選択だと思う。昔を知っている社員は社名の元になっている製品やブランドのプロポジションを変える勇気を持てないのが普通だ。過去を知らないからこそ固定観念やブランドイメージに邪魔されずに製品価値や存在理由に目を向けることができる。
最初に彼女がしたことは仁丹の使用目的を4象限にグリッド化したことだ。横軸に「誰に向けた製品か」縦軸に「植物由来か非植物由来か」をとり、そこに競合と目される製品をプロットした。それまでの仁丹が他人に不快感を与えないためのエチケット製品だったものを自分のための気分転換ブースター的な製品にリポジショニングしたのだ。新しいポジショニングは「自分のために使う健康に良い口中清涼剤」とななる。口臭も二日酔いも胃もたれも触れられていない。ネガティブ要素を除いて自分を上げる要素だけになっている。よい変更だ。

ただ縦軸のとり方には多少問題がある。植物由来で切るのは自社ブランドに都合がよいだろうが、ポジショニングは「消費者の意識の中で競合と比べたマップ上のどこに自社製品が位置するか」と定義されるので、食物由来かどうかを気にしない他社製品の消費者のことは斟酌されていない。またマウスウォッシュや口中清涼剤を自分のために使用する人の方が多いと思われるのでこれも若干恣意的ではある。
ただネガティブ要素を排除し自分のお守り的製品にしたことは評価できる。同時にポジショニングを変えてもパッケージやキービジュアルを維持していること、生薬であること、医薬部外品、カフェインレスでシュガーレスであるアセットを訴求しているのも評価できる。この成功のせいかどうかは分からないが仁丹の業績はこの3年間増収総益だ。彼女は社長賞くらい貰ったのだろうか。
かつては日本最大の大衆薬であり、長い間日本の大広告主であり、中年男性を中心に愛された仁丹。1980年代のピーク時と比べると売り上げはわずか3%にまで落ち、一時は会社の存続も危うかった。昔銀行から仁丹を買収しませんかと話があった。ブランド価値を調べたが提案額には及ばず話は進まなかった。そんなブランドが再生されて頑張っているのを見るのは老マーケッターとしては喜びに堪えない。頑張れ!仁丹。
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