しかし社会に出ると会社にはMission、Vision、Valueなるものが存在することを知る。Missionは「使命」と訳されるが「存在理由」の方が分かりやすい。Visionは「将来になりたい姿」、Valueは「行動指針」と訳されることが多い。簡単にまとめると、その会社は何故存在し、将来の目標をどうやって実現するのか、となる。その三つをWhy?、What?、How?を置き換えると分かりやすい。日本の企業には社訓とか社是と呼ばれるものが存在するが、グローバル企業は世界中に事務所を持ち国籍も従業員の背景も文化も異なるので、全員が同じ方向を向くためにこうしたものが必要になる。
最近は抽象的な概念を含むことが多いMissionやVisionよりも具体的な行動指針に結びつきやすいValueを重要視する会社が多い。会社によってはValueを行動規範と呼んだりクレド(Credo)という語を使ったりする会社もある。Credoとは信条や志を意味するラテン語で私がいた会社ではクリードと呼ばれていた。
クレドは1943年に米J&Jが「我が信条」として初めて考案されたが、有名になったのは1982年にそのJ&J製品に何者かによる毒物混入製品が発生した「タイラノール事件」の時だった。J&Jは「我が信条」の冒頭に「我々の第一の責任は、すべての顧客に対するものである」と明記された通り、このクレドに基づいて迅速に製品回収をして事態収拾を図り、消費者の信頼を勝ち取ったことでJ&Jの信用とクレドの効用が全米に知られることとなった。今ではクレドに従った行動をとることが上司の指示より優先されることもあるし、リッツカールトンのようにクレドを実行するために従業員に一日上限2千ドルを自由に使うことができる決裁権を与える例もあるくらいだ。
私が在籍していた製薬会社にもValueがあり、人の尊重、誠実性、卓越性の三つが挙げられていた。管理職として入社しその翌年数十人規模のグループを率いることとなった時、自分なりのValueというかモットーを提示しなければいけないと感じた。部下になる人のほとんどは私のことを知らないし、他の業界から来たよそ者が突然ボスになることに対する不安もあると思った。それで、それまでも時々使っていた「Fair, Share, Care」を思い出し最初の会議の日のプレゼンの最後に全員の前で発表した。
Fair - 誰に対しても差別することなく公平に接する。
Share - 自分が持っている知識や情報は誰にでも分け与え共有する。
Care - 他人に対して常に関心を払い、深入りしない程度に面倒を見る。
これなら会社のValueである、人の尊重、誠実性、卓越性と大きな矛盾もないし、韻を踏んでいて覚えやすいという利点もある。少なくとも「人には優しく」というメッセージは伝わったと思うし、上司の外人からも「俺のモットーよりわかりやすい」とのコメントももらった。それ以降仕事の時だけに限らず何かあったら「Fair, Share, Care」と呟きながら解決策を探ることにしている。
































