マーケティング爺のひとりごと

外資系7社でチューインガムから抗癌剤までのマーケティングを生業としていた引退老人です。使えそうなデータや分析、気になった出来事、思い出、日々思うことなどをボケ防止のため綴っています。にほんブログ村 経営ブログ 広告・マーケティングへ
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カテゴリ: パッケージング

スーパーの棚でパウチ入りのシーチキンを見つけた。以前からあるのかもしれないが初めて見た。数年前にノザキのコンビーフがねじ巻き缶からパッ缶に変わった時も驚いたが、このシーチキンのパッ缶からパウチへの変身にもビックリした。
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しかしこれは望ましい変身なのではなかろうか。ごみの量が減るし保管しておくスペースも軽減される。割高な1缶売りを敬遠して3缶パックや4缶パックを買っていたが、このパウチなら場所はとらないし、1個で買っても缶より安い。賞味期限こそ缶の37カ月に対し25カ月と多少短いが全く問題はない。

シーチキンは1931年清水の後藤缶詰所が試作したマグロの油漬け缶詰めに端を発する。もとはアメリカ向けの輸出用商品だったが、1969年に地元の三保の松原の羽衣伝説からはごろも缶詰め株式会社に社名変更した。シーチキンの商標は1958年に登録している。当時はミカンの缶詰との二本立て経営だった。私の父親は清水の生まれで当時実家は鶏の缶詰を作っていた。清水には缶詰工場がいくつかあった。子供のころ親戚から毎年お中元とお歳暮にはごろものミカン缶詰が贈られてきた。たぶん親戚のだれかが働いていたと思われる。

売れ行きがいまいちだったシーチキンだが、二代目社長が始めた特約店づくりと1967年に開始したメニュー提案型のテレビCMが功を奏し、開始前の3万箱から10年後には250万箱まで販売を伸ばした。食事の欧風化の追い風もあったが、他に先駆けて1982年にイージーオープン缶(パッ缶)の採用、ローファット、ローカロリー化へのかじ取りが早かったことも成長の要因となった。いまでもシーチキンははごろもフーズの売り上げの半分を稼ぎ出し、ツナ缶市場のシェアは5割を超える。清水にはツナ缶御三家と呼ばれる缶詰め会社があり、全国の97%を静岡県で生産している。
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もともと缶詰は1811年に英国で発明された。この発明により製品の保護、輸送そしてラベルを貼ることによりブランド名、成分、製法、用途、宣伝文句などを明確に伝達できるようになり、パッケージ化が可能となった。パッケージ化が可能になると、それまで量り売りなどで売られていた製品のブランディング化が可能になった。こうしてスープや保存食、フルーツ缶など多く生産されるようになった。ツナのオイル詰め缶はぴったりだったわけだ。
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しかし重い、錆びるなどののデメリットもありアルミ缶やイージーオープン缶などが誕生した。アルミ缶は軽いが「電気の缶詰」と呼ばれるほど高価であり、アルミのプルトップは開缶時に微小量のアルミが缶内に落下するとされ、これが脳内に蓄積されてアルツハイマーの一因となると一時話題になったことがある。清水にあったアルミのただ一つの精錬工場も原油と電力料金の上昇で10年前に撤退し、精錬したアルミを輸入している日本は円安で輸入価格も高騰し缶からパウチへの転換はさらに進むんだろうなあ。

日本のメーカーのパッケージ変更での失敗例です。
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キリンレモンは子供っぽいイメージを大人っぽいイメージに変化させようと佐藤可士和デザインのボトルに変えましたが(左から2番目のボトルです)、酒のような印象を与えて売り上げが激減し、高校生に依頼するなどして元のデザインに近いパッケージに再度変更をしました。その後90周年を記念して会社の象徴である麒麟を加え20代~30代をターゲットにしてリニューアルしたものが右端のボトルです。
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森永の「ウィダーinゼリー」は発売20年を機にそれまでの「マルチビタミン」や「プロテイン」などの機能性訴求から「エネルギー」、「カロリーハーフ」などのカロリー別の商品展開に切り替え、パッケージも英語を多用したものに変更しました。しかしそれまで培ってきた「10秒チャージ」や「ビタミン簡単摂取」などの製品コンセプトが伝わらなくなり、10%の売り上げダウンに見舞われました。やむなく4か月後に「マルチビタミン」などの機能性重視の名称に戻し、パッケージも再刷新して巻き返しを狙いました。それでも以前の販売量に戻るには2年近くかかったとのことです。

残念なことにこの二つのデザインとも佐藤可士和の作です。デザインとしては斬新かもしれませんが、変化が大きすぎてそれまでのユーザーに受け入れられなければ失敗になってしまいます。有名なデザイナーに頼めば大丈夫、とはいかないようです。


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パッケージを変更してうまくいくこともあればそうでないこともあります。下記の二例はパッケージデザインやロゴを大幅に変更したものの、不評ですぐに元に戻した例です。
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長年使われてきたおなじみのトロピカーナのブランドロゴ、ストローが刺さったオレンジ、NO PULP(果肉なし)表示を大胆に変更し、ロゴのフォントを変え、かつ縦書きにし、オレンジのイラストをカットして果汁の入ったグラスに変更し、商品説明も大幅に省略した新しいパッケージに変えました。しかし消費者からの苦情が多く寄せられ売り上げが20%下がったため、数か月後に戻のパッケージに戻すこととなりました。
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これもおなじみのGAPのロゴです。極めてシンプルな紺地にブランド名の白抜きです。これを白地に黒の文字に変え、フォントも変更し、かつ小文字を用い右肩には紺の四角を加えました。導入後クレームが寄せられわずか6日後に使用を中止して以前のロゴに戻しました。変更と再変更、回収などで巨額の損失を出したとのことです。

デザインのシンプル化はパッケージ変更の際の有効な方法ではありますが、長年使われてきて製品と一体化したイメージを消費者に持たれている場合は、消費者の違和感や失望を招くこともあります。上記二例も当然事前に消費者調査を実施しているとは思うのですが、現ユーザーの思い入れまではとらえられなかったのかもしれません。


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パッケージデザインの変更は菓子や飲料だけでなく他のカテゴリーでもよく行われています。

昭和産業のオレインリッチはピュアなひまわり油であることを強調するために、白地から黄色に変えひまわりの絵を前面に出しました。ボトルの形も変え、キャップシール上のフレーズも「オレイン酸たっぷり」から「あっさりおいしい」に変更、同時にブランド名と「コレステロールゼロ」の表示も小さくしました。非常に大幅な思い切った変更だと思います。パッケージ変更後の売り上げは3割増となりました。
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三和酒類の「いいちこ」は長年使ってきた「下町のナポレオン」を捨て、紙パックから透明なガラスボトルに変更しました。これも大胆な変化です。発売後CMも一新し売り上げは150倍となり、日本蒸留酒ランキングで第一位、世界蒸留酒の第三位の製品となりました。
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JAうごの「あきたこまち」は和服姿の秋田美人の写真と大きな製品名を、イラストレーター西又葵の美少女イラストに変更し、発売後一ヵ月でそれまでの2年分を売り上げました。主婦が購入者であるお米のパッケージとしては異色です。この成功を基に味噌、シチュー、カレーにもこの路線を展開中です。
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これらの3例もシンプル化、消費者があまり気にしない情報の削除、現代的なグラフィックや容器の変更など大胆な変化が成功の要因だと思われます。捨てる勇気も必要ということでしょうか。



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発売された製品がいつもうまくいくとは限りません。製品改良をしたり、広告コピーを直したり、広告量を増やしたりが一般的ですが、パッケージデザインを変更するのも一つの方法です。いくつかの成功例をご紹介します。
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昨年大幅なリニューアルをした高カカオチョコレートの代表格である明治のザ・チョコレートは2016年に発売されました。販売は思ったほどでもなく担当(女性)は思い切ったパッケージ変更を企画しました。カカオ豆をフィーチャーしたデザインからロゴのTHEを強調したシンプルなデザインに変え、同時に形状も正方形から長方形に変えました。社内会議では上司から「このデザインでは売れない」と散々だったのですが、発売すると販売計画の倍を売り上げるヒットとなりました。
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ココナツサブレは発売後50年ぶりにパッケージデザインを変更しました。外から中身が見えるようにするのと、同時に5枚ずつの分包も実施しました。購買層・ユーザーが高年齢化していたのを若返らせるためにプロモーションとしてエビ中パッケージも作成し若年層の取り込みにも成功し売り上げ増につなげました。
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東ハトのキャラメルコーンは英語のブランドロゴ、コーンのイラスト、製品の写真をシンプルにし、日本語のロゴと「遺伝子組み換えコーン不使用」表示を省き、空いた上部スペースに目玉と鼻をユーモラスに加えるという思い切ったパッケージ変更を一気に行いました。この変更で販売量は3割上がったそうです。

上記の3ブランドに共通しているのは、デザインのシンプル化です。とかく新発売時にはあれもこれも加えたがる傾向があり、グラフィックもコピーも重くなります。ビジーになって店頭で目立たないことも多く、シンプルにすることでアピール度が上がったのだと思います。


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朝食のプレーンヨーグルトに甘さが欲しいのでジャムを加えている(昔は顆粒の砂糖が付いていたのにね)。最近のジャムは健康志向なので甘さが控えめで物足りない。それでソントンのジャムに切り替えたのだがその横に並んでいたピーナッツクリームが懐かしくてついでに買ってきた。アメリカのスーパーではこれでもかというくらいピーナッツバターが並んでいるけど、日本ではごくわずか。ソントンの製品もピーナッツバターではなくピーナッツクリームという名前だ。
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ピーナッツバターはピーナッツだけで作られるのが普通だが、ソントンのピーナッツクリームは原材料表示を見ると(重量順に)水飴、砂糖、ピーナッツバター、植物油脂、ブドウ糖、乳蛋白、寒天などとある。子供が食べやすいように甘みを加え舌触りがなめらかで食べやすい。それでいてピーナッツの香りがして栄養もある。

もともとソントンのピーナッツクリームは大正後期に宣教師のソーントン師が布教の傍ら、栄養状態が悪い日本人のために本国から機械を取り寄せて製造販売し教会の維持費に充てていたものだった。ソントン創業者で熱心な信者であった石川郁二郎は師から製造方法を譲り受け、名前を使用する承諾も得て1942年に製造を開始し、1948年にソントンの前身となる会社を興した。当初はピーナッツバターに糖蜜を加えて食べやすくしたものだったが1952年に現製品に近い製品が開発されピーナッツクリームと名付けられた。これが街のパン屋の目に留まり当時流行っていたコッペパンの間に塗った商品が飛ぶように売れたという。

その後研究を重ねて紙容器を開発し1960年にFカップ(ファミリーカップ)を導入し缶容器、セロ袋、ポリ袋から切り替えに成功した。現在ではポリエチレン、バリアーフィルム、ポリエチレン、紙、ポリエチレンという5層構造を採用し香り成分も逃げなくなった。Fカップシリーズにはチョコレートクリームやキャラメルクリーム、ジャム類ではイチゴジャム、オレンジマーマレード、ブルーベリージャムなどが追加され9種類のラインナップとなっている。
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ソントンのFカップシリーズは高級品ではない。ピーナッツバターは通常数百円するし、有機のジャムや輸入ものには1000円を超えるものも多い。それらは確かにおいしい。しかし毎朝子供が食パンにいっぱい塗るのには向いていない。ソントンも最近素材のこだわった瓶入りの上位製品であるSun & Tableシリーズを出したが(残念ながら我が家の近辺では見かけない)、Fカップシリーズは100円強で売られている。家計には優しい製品と言うことができる。

10代から50代までの男女1万人に好きな「パンのおとも」を聞いた調査によると、2位にピーナッツクリーム、6位にイチゴジャム、8位にチョコレートクリーム、14位にブルーベリージャムと15位以内にソントンのFカップシリースが4商品も入っている。隠れたヒットシリーズと言うことができるし、その中でも2位に入ったピーナツクリームはスプレッド類の中ではトップクラスだ。食品の値上げが相次ぐ中でこれからもソントン製品は存在感を増すに違いない。



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来月3月の16日から野崎のコンビーフは缶を変えるという。昭和50年の新発売から70年続けてきたあのキリキリとねじを回すように開ける缶が消える。なんとなく寂しい気もするし、でもあれはいかにも時代を感じさせるレトロな感じだったから仕様変更も仕方ないかとも思う。もともとパッケージングは製品の保護が第一義で、その次に使用時の簡便性・機能性、そして店頭での競合品との識別性などが重要であり、野崎のコンビーフは簡便性・機能性という点では優れていたとは思えない。開けるのに手間がかかるし危険でもある。昔手を切ったこともある。開けた後もコンビーフを取り出しにくくフォークの力を借りなければならない。

製缶ライン設備の老朽化と設備更新に高額の投資が必要なことが仕様変更の理由らしいが、本家の米リビーは145年間も同じ「巻き取り鍵」方式を続けているのだからこの説明はどうも信用できない。
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新しい缶は「アルミック缶」というアルミ箔と樹脂フィルムを張り合わせたもので、利点としては開けやすく保存性も高いので賞味期限も3年から3年半に伸びるとのこと。外観は現在販売しているプラ80gや明治屋のコンビーフスマートカップによく似ている。消費者側から見た問題点は内容量が100グラムから80グラムへ減量されること。価格も410円から395円に下げると会社は言っているが、グラム単価は4.1円から4.94円へと20.4%も上がる。体のいい値上げではないか。会社側は調査をしたら「量が多い」「一人で食べるには少し多い」との意見があったので食べきりサイズにしたと言っているがこれも信用できない。自分がつまみにする時やチャーハンに入れる時に多いと思ったことは一度もない。老人でもそう感じるのだから若い人が100グラムが多すぎるとは思わないだろう。設備投資もしたのでこれを機会に値上げしちゃおうか、が本音ではなかろうか。


そう思うもう一つの理由が8年くらい前に買ったパッ缶式のコンビーフだ。
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誰もが馴染みのあるプルトップ缶詰で開けやすいし、内容量も75グラムと今度の変更とほぼ同じ。現在も野崎のHPに載っているし楽天市場などでも売られている。この缶でいいではないか。この製缶ラインを持っているのならば新たな投資も必要なかったのではなかろうか。賞味期限が半年伸びるのがそんなに重要なのか、それともあの箱枕そっくりの「枕缶」形状に会社としてすごい愛着があるのだろうか。好きな商品だけに変更のニュースを読んでそんなことを考えた。



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https://www.slideshare.net/Mooming/package-packaging-154096348

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