マーケティング爺のひとりごと

外資系7社でチューインガムから抗癌剤までのマーケティングを生業としていた引退老人です。使えそうなデータや分析、気になった出来事、思い出、日々思うことなどをボケ防止のため綴っています。にほんブログ村 経営ブログ 広告・マーケティングへ
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カテゴリ: 調査

15年くらい前にこんなCMがあった。ホームセンターの一角にベビーカー売り場があり4種類の製品が陳列されている。若い夫婦がその前に立ちざっと見た後に1台を選んで買っていった。その後20種類近いベビーカーが並べられると、買いに来た夫婦は悩んだ末に選ぶことができず買わずに帰ってしまった。
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CM画像にはプリンストン大学のシャフィール博士の「選択肢が多い方がより良いものが選べると思うでしょう。選択肢が増えすぎると人はむしろ何も選べなくなるんだよ」のスーパーインポーズが挿入されていた。

このCMを機に「決定回避の法則」は少し知られるようになった。マーケティングの分野ではこの法則は「ジャム理論」とか「ジャムの実験」の名前で語られることが多い。コロンビア大学のアイエンガー教授が1995年に行ったジャムの試食販売実験に基づいている。教授はスーパーマーケットの入り口近くで24種類と6種類のジャムの試食販売を繰り返し、種類の多さが売り上げにどう影響するかを調べた。11
その結果は24種類のジャムを陳列した場合は通行客の6割が立ち寄って試食したのに対し、6種類の時は4割しか試食しなかった。しかし試食後に購入した人の比率は24種類の時がわずか3%であったのに対し、6種類の時はその10倍の30%だった。実購買者比率は24種の時が60%x3%で1.8%だったが、6種の時は40%x30%の12%となり6倍強の差がついた。

「6種類ならともかく24種類全部試食したのかい」と突っ込みたくなるところだが、6種の方がコンバージョン率が高いのは明らかだ。ただ集客率が高いのは24種の方なので、陳列数が多いのが一概に悪いとは言えない。またこれはジャムの場合なので、製品のカテゴリーや消費者のタイプによっては状況が変わることも忘れてはいけない。私も先日台所の照明を蛍光灯からLEDに変えようとヨドバシに出かけたが、30くらいの種類があって戸惑った。日本製ならどれでもそんなに変わらないだろうと考えて、一番安い製品を選んだ。関与度の低い製品だとどれにするか考えるのが面倒になり、私のようなコスト志向の消費者は選択肢が多くても苦にすることはあまりない。

売るサイドから見ると集客のためにはある程度の種類を揃えなければならない。消費者の混乱を避けるためには、製品の特徴をシンプルに表した説明文、その店での売り上げランキング、お店のおすすめなど消費者をうまくガイドするような方法を加えておけば混乱は最小化できるはずだ。

ちなみに上記の広告は大和証券グループの広告だと初めて気づいた。よいCMだとは思うのだが広告主を想起できないのは広告としてはどうなんだろうか。(下のサイトで見られます)
https://youtu.be/lJZjF8IbfSk

博報堂生活総合研究所が調理寿命・調理定年は何歳なのかということをネット調査(24年3月 n=1500)に基づいて紹介している。これは仕事に定年があるように、ある年齢に達したら手作り料理主義を放棄しても良いのではないかという評論家の樋口恵子氏の提唱をベースにした調査らしい。氏の説は歳をとったら市販の総菜、レトルト、テイクアウト、外食を活用して楽をしようという考えで、女性を中心に支持が集まっているとのことだ。わが家でも私の定年退職と同時に家内が料理を卒業し、そのかわり私が17年間料理担当となっている。

博報堂によると調理寿命・調理定年には二種類あり、ひとつは料理をする気力がなくなる「ココロの調理寿命」、もうひとつが料理をするのが体力的にきつくなる「カラダの調理寿命」だという。確かに歳ともに食欲が落ち、料理をする気が起きない日が増えるし、重い鍋や鉄フライパンを振る元気がない日も多くなる。調査データによると作る気力が失せるのが全体では56歳(女性は57歳)、体力的に駄目になるのが63歳(女性は65歳)らしい。ということは、うちの家内も私の定年の少し前ににプッツンしていたということかもしれない。
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このデータで面白いのは、食べるのにも寿命・定年があるのではないかという発想だ。確かに歳をとると食べる量が減るだけでなく、脂っこいものを敬遠するようになるし、淡泊な和食に回帰する老人も多い。調査によると平均では44歳で若いころより食が細くなり大盛を頼むことができなくなる。いくらおいしい店でも行列までしてラーメンを食べようとは思わなくなるのが45歳。そこまでしてうまいものを食べようという意欲が失せるのですね。ガツガツ食べていた好きな焼肉が胃に重たく感じられるようになって控えるようになるのが50歳から51歳としている。
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これはなんだかわかる気がする。すでに大盛を頼んだり、店の前で並ぶようなことをしなくなって20年は経っている。夕食でもご飯のお替りをすることはもうない。ただ脂っこいものは相変わらず好きで、焼肉、ロースかつや鰻、揚げ物はローテーションに含まれている。今日も夕食用に海老フライを揚げた。健康のことを考えるとさすがに昔のように量は食べられないけど。

最近は高齢者の一人暮らしが多いし、食材の値上がりが激しいので、一人で調理するよりテイクアウトしたりUberで頼んだり、中食したり、市販の総菜を買う方が食品ロスも少なくて効率的なこともあるらしい。夕方のデパ地下やスーパーの弁当や総菜売り場では値下げシールが貼られるのを待っている高齢者や外人さんをよく見かける。調理寿命は年齢だけでなく孤食が増えていることも影響しているのだろう。博報堂の国際比較データでも「食事を買う」「一人で食べる」は8カ国中日本が1位だった。

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