子供のころから広告が好きだった (25)

私が勝手にタブー商品と呼んでいる製品群がある。使っていることを人には知られたくない製品で、広告が打てない(打ちにくい)もしくは広告が見ている人を不快にさせるような製品のことです。生理用品、コンドーム、かつら、痔や水虫薬などが入ります。他人のいるところでは買うことを躊躇する製品とも言ってもいいのかもしれません。ま、最近はそういう恥じらう傾向も無くなりつつあるようですが。
2022-05-16
1982年戸川純がおしりを突き出しながら「おしりだって洗ってほしい」という当時としては衝撃的なコピーを用いたTOTOウォシュレットのテレビCMが流れ始めた。それまでトイレの広告は新聞社や雑誌社から出稿拒否されていたことに加えて食事の時間に流れたこともあり「食事をしている時に便器の広告とは何を考えているのか」とクレームが殺到したらしい。ほんわかした戸川純の台詞回しや広告全体のトーンもあって批判も薄れその年を代表する広告となった。当時約15万円もしたウォシュレットは5年後には累積100万台を超えるヒット商品となり、訪日中にホテルでその快適さを経験した俳優やロック歌手が買って持ち帰るようになった。

その20年前。「40年間お待たせしました」「アンネの日と決めました!」という男にはよく分からない広告が女性誌を中心とした活字媒体に出稿された。月経とか生理日というダイレクトな表現でなく「アンネの日記」からとられた社名と製品名を前面に出したネーミングと広告活動でそれまで使われていた脱脂綿を駆逐し「水に流せる肌着」と言われたナプキンの時代を創りあげた。女性の心理的圧迫感を解放したが、それ以上に人前で口にすることがためらわれ生理日を「今日はアンネなの」と言わしめた功績の方が大きかった。
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こうしたタブー商品の広告表現は機能をストレートに表現すると嫌悪感を持たれたり、人前で使うことを憚られたりするリスクがある。後年生理用品のテレビ広告規制が解除された時に放映されたCMで、吸水性を誇示するために着色された水を製品に注ぐシーンの違和感というか不快感を今でも覚えている。こうしたマイナス面を避けるため広告主は機能表現にユーモアを使ったりオブラートに包むように穏健にしたり、機能的ベネフィットを心理的情緒的ベネフィットに転換したりと様々な手法を駆使する。

ウォシュレットの広告は今まで陽がが当たることがなかった便器やおしりに市民権を与えた初めてのCMだと思われるが、ネガティブ面を全く感じさせなかったのはコミカルに添えられた「おしりだって洗ってほしい」の一言だった。このメッセージのおかげで効能効果や便益にはほとんど触れていないのに、見終わった後に機能と爽快感がちゃんと伝わってきた。アンネナプキンも「アンネの日」と言い換えることによって生理日を日陰者扱いから救い出し、その機能性・簡便性によってアンネの日でも女性を活動的に変えることに成功したと言えるだろう。しかし大手の参入により業績が悪化し、吸収合併されるうちアンネブランドは消え、やがて会社そのもの消失してしまった。



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