外資と聞くと多くの人は、やることがドライで時に冷徹、英語ができる人が働いている、給料が高そう、が主な印象だろう。引退から十年後に2年間だけ旧財閥系の食品会社でアドバイザーとして派遣で働いたが基本的には外資しか知らないので比較は困難だが、確かにレイオフなど人員削減をしたり、ブランドや事業を売却したり、採算が取れないと分かると即日本市場から撤退したりドライな面はある。しかし最近は日本の会社も早期退職制度やM&Aを日常的に行っている。Going concern(企業の永続性)概念の浸透が進み財務の健全化のために遅まきながら何らかの手を打つ必要性が出てきたということだろうか。

英語ができる人は確かに多い。戦後の外資には英語はできるが経営を知らないタイプのトップがそこそこいたがそういう人たちは淘汰されていった。最初に入社した会社には外人が多かったせいか帰国子女の秘書や部長クラスにたくさんの英語達者がいた。得意先も外資が多かったので必要性もあり、アメリカの大学を卒業した新卒も採り始めていた。社内では帰国子女でグループができたり日本人同士なのに英語で話している光景も見られた。逆にアメリカの大学出身者同士では、卒業校の格もあるのか、妙な対抗意識があるらしくとげとげしい雰囲気も時々見かけた。私費で留学すると一千万くらいは投資しているので早く出世して回収しようという姿勢は今でも多くの外資で見られる。

転職して入った会社はマーケティング部だったせいか周りは私以外は全員アメリカの大学卒だった。かつ半数はMBAホルダーだった。みんな毎朝英字紙を読み、流ちょうな英語でプレゼンをした。時々私が理解できない英語のジョークが飛び交う。最初の大学では英語の単位を落としまくって退学処分を食らい、アメリカに行った経験もなく英語を使うことがほとんどなかった自分は最初のプレゼンで躓いた。説明をするのは記憶していることを話せばいいのだが質問が飛んでくる。質問の意味も完全にはつかみ損ねたが答えも口から出てこない。2~3分の沈黙。上司の上司である本部長が「気楽にやってくださいね」と声をかけてくれるが気楽などには決してなれない! こんなプレゼンが数回続いた。30代半ばではそう簡単に英語はうまくならない。開き直るしかない。
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それでこう考えた。外資の共通言語は英語ではない。共通言語は数字とロジックだ。外資で生き抜くためには英語はコミュニケーション手段として必要ではあるが、英語はあくまでConvenient LanguageであってCommon Languageではない。数字とロジックが共通言語だ。誰もが納得できるロジックを打ち立て、それを数字で裏打ちしてプレゼンや説明ができれば、英語がそんなにできなくても外資で生き残ることができる。自らを納得させるにはちょっと苦しかったがそう信じるしか方法はなかった。しかしそれで結構救われた。

数字はできるだけ暗記するようにした。資料を見ないで「当社製品がシェアを0.5上げたのに対し競合の製品Aは前年同期の17.4%から16.9%へ0.5ポイント下げました。そうです、我々がシェアを奪ったのです」と大きな声で説明するだけで聞き手(本社の外人)は信用する。前年の17.4は17.6か17.2だったかもしれないが、資料を見ながら説明するのとそらんじている(ように見せる)のでは信頼度が違う。誰もそこまでさかのぼって確認はしないし。それに外人さんは意外と数字に弱い。回帰分析をして、知名率が5%上がれば好意度は2%上昇します、その相関係数は0.878と非常に高い、と説明すると皆黙り質問もそこで途切れるのがほとんどだった。

給与に関しては確かに外資のほうが高いように見える。年功給と職務給の違いにもよるのだろうし、外資への転職リスクをオフセットしなくてはならないし、高くしないと日本の外資は優秀な人を集められるだけの評判、実績に欠けているのかもしれない。しかし目に見えない要素を考慮するとそんなに差がないように思われる。以前新聞記事で読んだのだが、日本の上場企業は従業員に払う給与の1.53倍を支出している。厚生年金保険料(18.3%)や健康保険料(11.64%)の労使折半分の負担、雇用保険料負担分(過半を会社負担)、労災保険料(全額会社負担)以外にも福利厚生費(社宅、家賃や社員食堂補助、託児所、海の家や山の家の保養所、研修所、社員のレクリエーション等)、退職給与積み立て分、慶弔見舞金などを加えると支払い給与の5割強のプラスを払っている。一方外資の場合は一握りの巨大外資以外は福利厚生費はごくわずかである。せいぜい所属する業界健保の施設を利用するかリロクラブのメンバーになるくらいのものだ。とすると外資では従業員に支払う給与の1.3倍くらいしかかからないことになる。この1.53との差額を給与として社員に払えばトータル人件費を増やすことなく見た目の給与が高くなるということだ。騙されてはいけない。


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